こんな夜は

この話はフィクションです。実際の登場人物は現実のものとは一切関係ありません。

さすがにフォトマスター1級合格への道を書く気にならないな。

朝、店長の佐竹がリフォーム関連業者が辞める件で電話していた。「倉橋常務の方からも…えぇ…はい、わかりました」会社は新しい業者を探す気も面接する気もないらしい。大変だな。早くリフォームなんて慣れない仕事から足を洗えばいいのに…と内心思っていた。

数時間後…「大沢主任、ちょっと…」誰か辞める時のトーンだ。たとえ嫌々でも7年も一緒に働けばあまり良い話ではないのは一瞬でわかる。「閉店らしい…」「えっ!」「クローズセールらしい…」、店が潰れるのは想像もしていないかった。「マジですか」岡山の田舎の量販店だ。会社は撤収の意向を固めたとのことだった。「他のみんなにはまだ言わないでね」辞められたら困るからだろう。チェーンストアは怖い。あまり意識していなかったが、不振店舗は早めに見切りをつけてスクラップすることで、家電量販店の戦国時代を生き抜いていくしかないのだろう。

いつもムカついているパートの行雄と千賀も急に可哀そうに思えてきた。いつもおしゃべりばかりして、まともに仕事してないから天罰が下る。正社員はなんとか首の皮一枚繋がれて他の店舗に転勤だが、パートは70㎞離れた近隣(とはいかない)店舗に行くのを嫌がれば、当然解雇だろう。地元の店舗がなくなって知らない神奈川の店に転勤しろと言われも正直きつい。「転勤は快く受けます」はあくまで地元店舗があっての話だ。帰る場所のない一方通行の転勤ははっきり言って嫌だ。まぁ地元の友達といっても結婚したり子供できたりで、ほぼもういないようなものだし、そこまでここに拘ることないか。とにかく今日一日終始やる気を出すのが大変だった。クラッシャー佐竹は人のやる気を削ぐのがうまい。閉店も2店舗目だ。慣れたものだろう。

母方の祖母のミナはもう97歳だ。死ぬまでにあと何回会えるだろうっていつも思う。それなのに会うたびに優しくて何万も金をくれる。たまにしか合わない俺になんの価値があるのか。ひ孫を見せてやれるわけでもない。だから俺もあった時くらいとそれなりに尽くすが、いままでもらったものが多すぎて返しきれない。

会うといつも思うんだ。どうしてたまにしか合わない親戚に精一杯優しくできるのに、いつも会ってる同僚にはできないんだろう。直(妻)にもできないんだろう。職場は友達付き合いと違うからな。どうして仕事なのにすぐ嫌なことから逃げるゴミくずどもに優しくしなくちゃいけないんだ。俺が店長になったらあいつ絶対首にしてやる。この夢も潰(つい)えた。そんな否定的な願望ばかり考えてるからロクなことにならないんだよ。転勤にしろ、退職するにしろ、あと半年でみんなとさよならだ。最後ぐらい優しくしなくちゃ。

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