憐憫と天秤

「長井さんの元々々彼の高畑くんってまだ勤めてるっけ?」「確かまだ勤めてますね」「あの辺みんな辞めちゃったじゃん。宮崎の店なくなっちゃって…」県外にみんな飛ばされたけど、数年でほとんど辞めてしまった。意外と仕事できる人も多かったが。「そうそう。だから同期で残ってるのうちとあいつだけですよ」

地元の店は五年前になくなってるのに、勤め続けるってどういう気持ちなんだろうな。自分の今の思いも込めたつもりだが、長井はそのことを知らない。「片親なんで辞められないんですよ」「そうなのか」「俺らもこの店なくなったら考えるだろ?」「ちょっと考えますね」っていうかお前は旦那も子供もいるから辞めるだろ?と思ったが、当然言わなかった。

今日も海野と長井がいつまでもおしゃべりしていた。海野は45歳で独身だから女と喋りたいのだ。もうどうでもいいと思った。好きなようにやればいい。どうせあと少しなのだから。

図書館に本を返しに行って、帰りに救急車がうちの近くの交差点で、アパートの方向に曲がったので不安になった。18歳になるちょっと前にうちじゃねーからいいやと思っていたら、実家が火事だったことがある。今日はちょっとズレたところで止まって、ジムから帰った1時間後にも警察が来ていた。事件でもあったんだろうか。

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